映画『ボルベール―帰郷―』★帰りたい場所に、想いを馳せて..........

作品について http://cinema.pia.co.jp/title/17704/
↑あらすじ・クレジットはこちらを参照してください。
(ネタバレ)
強い風の吹く、ラ・マンチャ。
そこは、母と確執のあった、ライムンダ(=ペネロペ)の故郷。
ライムンダと娘パウラ
ライムンダの姉、母、叔母
叔母の隣人の女性アグスティナ....。
母・娘、姉・妹、叔母・姪、祖母と孫娘
そして、妻・愛人と、女性たちがなりうる、あらゆる姿を背景に
大筋は、ライムンダと母の物語、を見せているのだが、
ライムンダとパウラとの関係を、
母娘であり、姉妹であるという、悲惨な関係にしたことが、
この作品の”傷口”だと思った。
死んだ者として、隠れながら生きてきた母も、一見、哀れむ存在ではあるが、
この母は、哀れまれる存在としてライムンダの前に現れるというより、
より”傷口”の深い娘ライムンダを癒す存在として、現れたと思った。
娘パウラが、義父の乱暴から抵抗し、殺害したことも”傷口”だが、
この”傷”も、母ライムンダが背負ったことで、
かなりの重圧を抱えた女性を、ライムンダに仕組んだようだった。
劇中、ライムンダが歌う「ボルベ-ル」は、故郷や親など、
自分が帰りたい場所に、想いを馳せられる名曲だ。
ライムンダが、瞳に涙を浮かべていたのは、
自ら避けてしまった母への郷愁だとわかる。
逃げても、避けても、母への思いは変わらない。
「ママ。話したい事が山ほどある。」
ライムンダが、本来、母に受け止めてほしかったことは、
父の子を身ごもってしまった動揺だったかもしれない。
そして、娘の殺人をかぶったこともそうだろう。
しかし、母と言葉を交わしたいと思うのは、
怒られている時にも、たわいない話をしている時にも感じる、
安心感のある、温もりがあるからだ。
だから、
娘が、義父との間に起こった話も、
母が、夫と愛人を風の強い日に焼き殺し、自分が死んだことにした話も、
フラッシュバックの回想映像ではなく、
すべて母と娘の”会話”というかたちにして、
母親が、子供を大きく抱擁する情景を、見せたかったのだろうと思った。
そして、ライムンダ一家の”傷口”が、癒されつつ終わるだけでなく、
ラストに、もう一つ、傷口をふさぐ優しさを見せてくれた。
隣人のアグスティナの看取りである。
母が焼死させた、夫の愛人はアグスティナの母であった。
母親の死の真相を知らぬまま、病気で、死期の迫ったアグスティナを
ライムンダの母は、最期まで看取る決心をする。
アルモドバルの作品は、いつも人生の”傷口”を見せる気がする。
見ていて、ヒリヒリ痛くなる.....。
その傷の痛さを、自分が知っていればなおさら、
知らなくてもそれなりに、
なぜか、人間が、いとおしく感じられてくるのだ。
憎むべき人、虐げられた人、必死で生きている人....
生生しい人間の姿を見せられることで、自分の中の奥にある”人間”が
傷だらけになりながらも、何かを探りながら生きていることを
自覚するような気がしてくる...........。
だから、私はアルモドバルが好きだ。
目をそむけたくなる、キレイ事でない、現実世界に生きる人間たちを、
ビビッドな映像と同じように、鮮やかに描いている。
彼の作品から、いつもそれが衝撃とともに、胸に刻まれる。
~~追伸~~
“罪と罰と償い”
物語の大筋は、娘ライムンダと母の物語です。
死んだはずの母は、生きていました。
生きていたのに死んだことにしていた訳は、
人を殺したらからです。
夫と愛人を焼き殺し、愛人の死体を自分と思わせたのでした。
ストーリーは、ほとんど、ライムンダの家族の出来事を見せますが
ラストに、忘れてはならないシーンを持たせてくれました。
それは、殺した愛人の娘を、ライムンダの母が看病することです。
母親の死の真相を知らぬまま、病気で、死期の迫った娘アグスティナを
ライムンダの母は、最期まで看取る決心をするのです。
罪滅ぼしのため…..。
(もしかしたら、夫の子かもしれません。
そうならば、二人は、義理の母娘でもあるのです。
幾重にも、女たちの関係を編み上げる展開は、念が入ってます。)
ライムンダの母は、殺人の“罪”についての“罰”を受けてはいません。
しかし、時効はあっても、生きている限り、
“償い”はするべきです。
“償い”は、“罰”を受けるよりも、必要なものだと思います。
病めるアグスティナに必要なものは、母の敵への“懲罰”でなく、
安らかな死を迎えられることです。
ライムンダの母が、自分への“罰”を“償い”にし、
アグスティナを看取ろうと決心したシーンは、
私には、印象的なシーンとなりました。
ライムンダの母も、もし愛人などいなければ、
嫉妬に狂わず、人を殺す過ちを犯すこともなかったと思うと、
憐れな気もします。
人生を狂わされても、振り回されても、
それなりに、人は生きていかなければならない…………..。
生きるって大変なことだ、と思いますね。

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