映画『ウィンターズ・ボーン』 ★―BONE― 人の心の一番底にある体温に触れたような

作品について http://cinema.pia.co.jp/title/156417/
↑あらすじ・クレジットはこちらを参照してください。
(ヤフーレビューの修正転載です)
父は保釈中に失踪して、母は心の病に。
17歳の長女リーが、弟妹の面倒を見ているが、
父が裁判に出頭しなければ
保釈金の抵当に入った自宅と森が、売却されてしまうという。
リーは、近所に住む親せきたちに
父の消息をたずね回るが、みな、リーに関わるのを避ける……
例年にない大雪で、いつにも増して
体が縮むほど寒い空気の中、映画館に向かった。
軒先には、まだ折られていない、長すぎるつららが、牙のように垂れ下がる。
作品の舞台(ミズーリ・オザーク山地)には
そのような、寒さそのままに入り込めた。
厚手の上着に帽子。地味な色が、画面を沈ませる。
そこにある冬は、温度の冷たさだけでなく
暮らし・生存の温度の低さを感じさせる。
お金がない。食べ物がない。それは
ヒルビリーと呼ばれる人たちの、生活の厳しさだけではなく
何よりも、リーたち子どもには、親の愛の庇護がない…
なるほど、寡黙に語る、骨太な作品との印象でした。
▼~▼以下、結末はボカして想うところです)
▼▼▼
1.17歳の長女リー
年齢は、実年齢や精神年齢・生活年齢など、あります。
年齢で大人か子どもか、と考えたときに
母の例を、思い浮かべます。
戦時中、母が6歳のとき、女だからと言う理由で
祖父の食事の支度をするために、親から離れて
1人暮らしの祖父のもとへ送られたことがあった、と聞きます。
今なら、祖父が孫の面倒を看るもの、という価値観ですが
戦時中は、女であれば、子どもであっても
男の面倒を看るものであったらしいです。
母は、そのときの体験から
自分は、早く大人になったと思うと言っていました。
そういう点で、リーは、親に生活の面倒を看てもらえない分
大人になっていたようです。
けれど、皮肉なことに、国は、家族の大黒柱であるリーを
一人前には観ていない現実を
軍隊入隊志願の際、思い知らされます。
生活費目当てで入隊志願するリーは、未成年だという指摘を受けるのです。
現実には、自分に責任を持てない、ダメ大人がゴロゴロいるのに
成年・未成年の線引きがあることの可笑しさ。
一方、親戚たちが、リーにした仕打ちは
もはや、リーを子ども扱いしたものではなく
落とし前(?)をつけさせるだけの大人とみなしていたのも、皮肉です。
2.親戚たち
親戚といっても、その付き合い方は、その一族で異なると思います。
本当に結束している一族もあると思いますが
親族は、他人よりもやっかいな集団となることもあるでしょう。
リーの親戚たちは、当初、リーの家と疎遠かと思われましたが
実際は、“掟”を持った
かなり、しがらみの強い付き合いをしていた人たちらしい
ということがわかります。
始めは、お互いに関わらないほうが
リーの身のためであるように、リーを足蹴にして
親戚とは冷たいものだ、と思ってしまうのですが
最終的には、父のことで
リーに有利をもたらす“手”を貸してくれることには、安堵できました。
ただし
残酷で、厳しい道を通ることにはなるのですが
リーの骨太な心根に、親戚も、向き合ってくれたのかもしれません。
この、なんとも言えない“思い遣り”は
隣家のオバサンが
親切に、ジャガイモを分けてくれる優しさとは、まったく異なるもので
名前のつけられない気遣い、と言った感じなのですが
しいて言えば
どんな人にも 心の一番底にある、体温の根っこのような温かさ……
とでも言いましょうか…
3.BONE★☆
そのほかにも、不透明な“温かさ”が
終盤になるにつれ、見えてくるのですが
この、寒くて寒くて、凍えるような冬空の世界では
は~と吐く息でため息でさえ、温かく感じるものです。
ほんの少しでも、人の優しさがあれば、今日、生きていけるなら
逆に、ほんのわずかな優しさがないばかりに
明日を生きられなくなるということ。
灰色に見える世間に、何が白で何が黒かを、問わなくていい。
とにかく、この灰色の町で
家族と、今日も明日も、生きていかなくてはいけない…………
『ウィンターズ・ボーン』
殺伐としたタイトルですが^^;
リーたちの生活の明暗を分けたのが、“BONE”。
それがあれば、リーたちは、住む家を追い出されずに済みそうなのです。
▼▼▼
パーっと明かりが差すような希望を 感じるものではないかもしれませんが
輝かしい希望がなくても
とりあえず、窮地を脱すれば、生きて行けそうに思えます。
リーも、私たちも。
たとえ寒空でも、今日、生きていれば、明日の空を見ることができる――
そういう意味で、今、生きていることの現実的な強さが
希望になってくれそうでした。
かわいい手が弾く、バンジョーの響きとともに………………

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